2023年 5月15日 「2.11 数学ではモノは無定義語だが...」 を読む >> 目次に もどる


 本節は、本書において、個体指定子という語が初めて登場する節です。そして、この個体指定子が本書全体を通して、言い替えれば モデル TM において、一番の中核概念です。モデル TM の 「『関係』 文法」 は、この個体指定子に関する文法です。

 個体指定子は、モノ を指示する指標 (indicator) です。モノ として どうような対象を考えるかは、その モノ に対して 「論理 (論理規則)」 を使うことになるので、「理論」 (「論理」 を使った無矛盾は公理系) を構成するための大前提です。モノ として考えられる対象は、次の 3つです──

  (1) 個々の文字 [ 単語 ] (文法上の意味・機能を有する [ 文の成分となる ]、言語の最小単位)
    たとえば、名称、年齢、住所、数量、重量、受注日、契約日など。

  (2) 単語を組みあわせた文字列 [ 個物 ] (自己特有の存在と性質を有する有機的統一体)
    たとえば、従業員、商品、営業所、受注、契約など。

  (3) 個体群 [ 種、同値類 ] (同種個体の集まり)
    たとえば、営業所の集合と特約店の集合をまとめた上位概念としての取引先の集合など。

 そして、モノ を認知する 「階」 に拠って、モノ に対して適用する文法体系はちがってきます。
 数学では、モノ は無定義として考えられていて、x, y, z などの変数として表す 「項 (term)」 です。数学上、「項」 は次のように定義されています。

  (1) 変数 x, y, z は、項である。

  (2) 変数 x, y, z ・・・を項として、関数 f を変数とするとき、f (x), f (y), f (z) ・・・は項である。

  (3) 定数は項である。

 コッド 関係 モデル では、集合論と第 1階述語論理を前提にした公理系です──項 (1) を アトリビュート として捉えて、項 (2) を その集合 (属性値集合) と考え、属性値集合の直積集合 tuple を個物 (有機的統一体) として考えています。ゆえに、個物 は tuple が表して、個物に対する演算は それぞれの属性値集合を基本としています。個体指定子は、コッド 関係 モデル では、アトリビュート の一つとして考えられていますが、他の アトリビュート とは扱いがちがっていて、primary-key (index-key ではないことに注意されたい) として扱われます。ただし、本来、意味論的に tuple の全体を包括する primary-key が、他の アトリビュート と構文論的に同一階で扱われているということが厄介な問題を引き起こしているのです (コッド 関係 モデル の集合論については、第11章で説明します)。

 いっぽう、モデル TM は、tuple に付与された個体指定子を使って、「『関係』 文法」 を構成しています。個体指定子とは、個物を識別するために付与された人為的な コード であって、現実的事態に付帯する性質 (アトリビュート) ではない。個体指定子として、通常、xx 番号とか xx コード が使われています。この個体指定子は、数学的観点からいえば、集合 (セット) をつくるための領域 (domain) を示しています。たとえば、従業員番号を目安にして 「従業員」 という集合を作り、商品 コード で 「商品」 という集合を作り、受注番号で 「受注」 という集合を作るなどです。モデル TM では、アトリビュート に関する文法を用意していない (アトリビュート の文法は、コッド 関係 モデル に準ずるとしています。すなわち アトリビュート は、個体指定子に対して構文論的に関数従属性が定立されていればいいというくらいにしか考えていない)。というのは、TM では、アトリビュート は、モデル を意味論的に補強するために、クラス を使って個体指定子の制約束縛を離れて、整えられるからです (第 8章で説明します))。

 単純に言えば、TM の 「『関係』 文法」 は、個体指定子 (コッド 関係 モデル の primary-key) に関する文法です。 □

 




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