2002年 2月23日 作成 分配可能利益算定と情報開示 (disclosure) >> 目次に もどる
2006年 6月 1日 補遺  

 

 我々シロートが 「会計ビッグバン」 を勉強するときに、論点となっている個々の会計 (税効果会計、年金会計、デリバティブ取引会計、リース会計や合併会計など) を勉強しても、おそらく、知識が交錯して理解しにくい、と思われる。
 そこで、「会計ビッグバン」 の勉強をする前に、以下の4点を、まず、勉強しておいたほうがいい。

 (1) 日本の制度会計は、商法・証取法・税法の「三位一体」体制だった。
 (2) 「分配可能利益算定」 目的 (取得原価主義) か、「情報開示 (disclosure)」 目的 (時価会計) か。
 (3) 「時価」 には、いくつもの種類がある。
 (4) 「割引現在価値」 計算 (複利計算) ができなければ、最近の会計 (年金会計、リース会計など)を
     理解できない。

 前回のホームページのなかで綴ったけれど、税法は 「確定決算主義」 に立っていて、公正妥当な会計基準にしたがって計算された利益に対して課税をするのだが、「損金繰り入れ限度額」 を定めているので--例えば、最近まで、退職給与引当金の繰り入れ限度額は 40%とされていたので--、企業は損金の限度額までしか積み立てていなかったように、税法が企業会計に対して影響を及ぼしていた。あるいは、商法と証取法と税法の間では、「資本」 や 「引当金」 の範囲について、解釈がちがっているなど、それぞれの法令の間には、(前述したように、それぞれの法令の観点がちがうので) 会計行為 [ 会計取引の認知・測定・計上 ] に対する解釈の相違も起こっていた。

 商法・証取法・税法の三位一体のなかで、共通した目的が 「分配可能利益の算定」 (配当、租税公課などの計算) であった。「分配可能利益の算定」 を目的としていれば、「未実現利益」 を計上する訳にはいかないので--なぜなら、資金の裏付けがない配当はできないので--、資産の評価規準は取得原価主義を使い、費用の計上基準は発生主義を使い、収益の計上基準は実現主義 (引渡基準) となる

 しかも、税法 (税務会計) が認めている 「益金・損金(収益・費用)」 の範囲と証取法 (財務会計) が認めている 「収益・費用」 の範囲にはズレがあって、「税引き前純利益」 の計算をした後に税法の調整をして、「税引き後純利益」 を算定しなければならず、(「確定決算主義」 を建前としていながら) 「税引き前純利益」 に対して法定税率 (ほぼ、48%) を適用した値と実際の実効税率が違ってくる、という現象が起こっていた。すなわち、税務会計が財務会計に対して影響 (牽制) を及ぼしていたのである。
 税務会計の影響を排除した純粋な財務会計の数値を報告するために、「税効果会計」 が導入された

 会計取引を評価する(値を計算する)基準としては、以下の3つがある。
 (1) 取得原価(過去の値を使う)
 (2) 時価   (現在の値を使う)
 (3) 割引現価(将来の値を使う)

 損益計算書のなかで (費用と収益の) 「期間配分」 をやって [ 企業努力と企業成果を対応して ]、「分配可能利益」 を計算することが目的であれば、取得原価 (過去の値) を使うことは合理的であるが、いっぽうでは、企業に投資するための判断をするためには、「現在の」 企業の財産状態を報告する会計が成立する [ 情報開示 (disclosure) の観点 ]。
 「情報開示」 観点からすれば、現在の値 (時価) を使って資産を評価することが合理的である。また、将来の支払わなければならない債務は、将来の支払い額を利子率で割り引いて現在の価値を計算することは合理的である。そのために、時価 (公正な市場価格、あるいは取替原価や売却時価) および割引現価という評価基準が導入された。

 ただし、分配可能利益の計算という目的が排除された訳ではないので、時価を使って評価されて生じた 「未実現利益」 に対しては [ 分配の対象とならないように ] しかるべき計上手続きが導入されている。
 すなわち、現行の制度会計は、(世間では時価主義会計であると誤解されているが) 「取得原価主義」 を排除した訳ではないし、依然として、「取得原価主義」 を立脚点にしながら、時価を使って評価する対象が多くなった、というのが現状である。

 「現在価値(割引現価)」 の考え方が導入されて、オフ・バランスとして扱われていた年金債務やリース資産がオン・バランスの対象となったので、「割引現価」 を計算できなければ、それらの会計を理解することができない。
 そこで、次回は、「複利計算」 を扱う。□

 



[ 補遺 ] (2006年 6月 1日)

 会計は、構造として、以下の 3つから構成されています。

 (1) 会計公準 (「基礎的枠組み」 ともいう)
 (2) 会計原則 (「会計基準」 ともいう)
 (3) 会計手続き

 会計公準から会計原則が導き出され、会計原則から会計手続きが導き出されるという構造です。
 会計公準には、「構造的公準」 (会計の構造を対象にした基礎的枠組み) と 「要請的公準」 (会計の目的を示す基礎的枠組み) があります。「構造的公準」 として、以下の 3つがあります。

 (1) 企業実体の公準 (計算単位)
 (2) 会計期間の公準 (計算期間)
 (3) 貨幣的測定の公準 (計算手段)

 「企業実体の公準」 は、計算単位 (計算の範囲) を示していて、法的実体と経済的実体の 2つがあります。法的実体というのは 「法人格」 を単位とした計算であり、個別財務諸表が作成され、経済的実体とは、具体的には、「連結」 ベースのことをいい、連結財務諸表が作成されます。
 「会計期間の公準」 は、計算期間を示していて、1年を会計年度として、財務諸表を作成しますが、半期・四半期を期間にして財務諸表を作成するようになりました。
 「貨幣的測定の公準」 は、財務諸表の数値は貨幣を使って記述されるということです。したがって、単一貨幣を使っていれば、物価の変動を配慮しなければならないし、多貨幣--たとえば、円とドルなど--を使っているなら、外貨換算を考慮しなければならない。

 「要請的公準」 は、会計の目的 (「会計はなにをなすべきか」) を示します。会計目的として、「公正性」 や 「有用性」 をはじめとして、いくつかの概念が示されていますが、「有効性」 の公準が強いようです。すなわち、「だれのための会計報告か」 という点が強く意識されています。

 さて、従来の (「会計 ビックバン」 以前の) 会計は、計算単位として、個別財務諸表が主体で--持株比率を規準にして、連結財務諸表が従属的に作成され--、計算期間が1年・半期で、計算手段の貨幣価値は 「一定」 として、会計目的は、分配可能利益を計算するという構造でした。そのために、取得原価主義会計が使われていました。
 「会計 ビッグバン」 は ビッグバン と言われたように、根底から会計の構造が変わりました。すなわち、会計手続きとか会計原則の構造変化のみではなくて、会計公準の前提が変わったのです。会計目的として、「投資家のための情報開示 (disclosure)」 が強く意識され、計算単位は、連結財務諸表が主体になって、時価で評価される項目が多くなりました。

 なお、時価主義会計と時価会計は違う点に注意して下さい。
 時価主義会計は、「すべての」 財務諸表項目を時価で評価することですが、時価会計は、取得原価主義の枠内で、「いくつかの」 項目を時価で評価することです。

 時価には、以下の 2つがあります。

 (1) 市場価格 (マーケット・プライス)
 (2) 割引現在価値(Discounted Cash Flow)

 資産に対して取引の市場が成立しているのであれば、市場価格が時価となりますが、市場のない資産--たとえば、工場や本社ビルなど--は市場価格を参照できないので、割引現在価値を使うことになります。割引現在価値の計算は、計算構造として、複利計算の或るやりかたと同じです (この点は、次回、述べます)。




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