200751

特論-8 P.Chen 氏の ER手法 (その 1

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201241日 補遺

 



 本節では、「一般に承認された」 データ 設計の手続きを以下のように まとめている。

  (1) 論理設計 (正規化と最適化)
  (2) 物理設計

 
 そして、「スキーマ (schema)」 という用語を以下のように使っている。

  (1) 概念 スキーマ (経済実態の写像、DA の観点)
  (2) 論理 スキーマ (アクセスの単位、プログラマ の観点)
  (3) 物理 スキーマ (データ 構造の実装形、DBA の観点)

 私は、本節では、(公的機関の ANSI/SPARC が示した 「スキーマ」 概念を援用して、) 論理設計の アウトプット を 「概念 スキーマ」 としている。ただし、「スキーマ」 という用語の使いかたは、かならずしも、ANSI/SPARC の示した使用法が合意されていないようである。たとえば、論理設計の アウトプット を 「論理 スキーマ」 とみなして、論理設計に先立って 「概念設計」 という設計段階を立て、「概念設計」 の アウトプット を 「概念 スキーマ」 とよぶ流派もある。

 私は、本節では、論理設計の アウトプット を 「概念 スキーマ」 とよんでいるが、最近、(論理設計の アウトプット を) 「論理 スキーマ」 とよぶようにしている。しかし、「概念設計」 を認めて、その アウトプット を 「概念 スキーマ」 とよぶことはしない。私は、「概念設計」 を認めていない。
 私が、論理設計の アウトプット を 「論理 スキーマ」 とよぶようになった理由は、意味論を考慮したからである。意味論には、以下の 2つがある。

  (1) 記述的意味論
  (2) 論理的意味論

 TM (T字形 ER手法) は、論理的意味論に属する モデル (modeling)である。
 論理的意味論は、以下の 2つを順守して モデル を作る。

  (1) 個体 (真とされる 「語い」)
  (2) 関係 (真とされる 「文」 を作る文法)

 モデル は、「個体の指示規則」 と 「関係の生成規則」 を示さなければならない。生成規則が構文論 (syntax) と云われ、指示規則が意味論 (semantics) と云われる。TM は、これらの規則を示した モデル である。したがって、TM は、論理的意味論に立っている。そのために、TM の アウトプット を (論理的意味論の 「論理」 という ことば を借用して、) 「論理 スキーマ」 とよぶようになった次第である。

 記述的意味論に立つ流派が、「概念設計」 という設計段階を唱えている。論理的意味論に立っている TM は、記述的意味論と対峙する。したがって、TM では、「概念設計」 という用語を使わない。

 チェン ER手法は、コッド 関係 モデル (論理的意味論) に対して、「意味論」 の モデル として提示されたが、数理 モデル たる コッド 関係 モデル は、意味論を当然ながら配慮している。数理 モデル は論理的意味論に属する。TM は、コッド 関係 モデル に対して、さらに、意味論 (のなかの 「指示規則」) を つよく適用した モデル である。

 私は、チェン ER手法を認めていない。なぜなら、もし、チェン 氏が ER手法を意味論 モデル というのであれば、個体の指示規則を示すべきであるが、チェン ER手法では、個体は例示されていても定義されていないから。もし、個体を定義しない (あるいは、定義できない) のであれば、個体を変項として、個体を扱う関係文法を示すべきである。しかし、チェン ER手法は、関係文法も示していない。コッド 関係 モデル は、関係文法を示した モデル である。チェン ER手法は、モデル の要件を満たしていないので、モデル に値しない (単なる記法にすぎない)。

 論理スキーマ (本節では、「概念 スキーマ」) が、事業過程・管理過程の 「意味」 を記述した構造であるならば、論理 スキーマ と物理 スキーマ は、できるかぎり、同じ構造 (同じ外延) にしたほうが良い、というのが本節の論点である。



[ 補遺 ] 201241日)

 本 エッセー は五年前に綴られています。その説明は (今から振り返れば、) 歯切れが悪い。今の私は、論理的意味論を 「抽象 データ 型 データ」 の モデル と言い切るし、「モデル 論」 (Theory of models) で云う 「モデル」 も 「模型」 の事であると言い切ります。モデルが 「模型」 であるからには、当然ながら、「現実」 の縮図でなければならない── SE が私概念で描く概念図ではない。それは、科学として当然の事ではないか。「模型」 作りに対して モデル 論というのであれば、その構成法 (生成規則) を示さなければならない事も当然の事でしょう。







 

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