2007516

特論-9 P.Chen 氏の ER手法 (その 2

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2012416日 補遺

 



 コッド 関係 モデルは、1970年・1971年に公表され、チェン ER手法は、1976年に公表された。チェン 氏は、ER手法を公表したときに、「コッド 関係 モデル は リレーショナル・データベース用の設計法であり、ER手法は 特定の DBMS に依存しない 『意味論』 の設計法である」 と言った。チェン ER手法も、「考えかたとして」、関係 モデル を前提にしている--ただし、コッド 関係 モデル は、n-組関係を基本形として、チェン ER手法は 2項関係を基本形としている。そして、チェン 氏は、ER手法から コッド 関係 モデル に変換する しかた も示した。コッド 氏は、チェン ER手法を認めなかった。コッド 関係 モデル は、「relationa completeness (完全性)」 を証明されている。

 意味論の観点から モデル を判断すれば、コッド 関係 モデル は 「論理的意味論」 である。したがって、チェン 氏が コッド 関係 モデル に対して示した見解は、的外れである。チェン ER手法には、以下の弱点がある。

 (1entity が定義されていない (列挙されているにすぎない)。
    entity を定義できないのであれば、entity を変項として、entity を構成する文法を示すべきである。
 (2) 和集合・積集合を示すことができない。

 チェン ER手法が出てきてから、世間では、ER手法が 「意味論」 の手法として front-end に立つようになった。しかし、「データ の独立性 (data-independence)」 を前提にした 「データ 指向 (data-oriented)」 の考えかたは、コッド 関係 モデル が起点であると私は思う。

 私は、当時 (1980年代の初期から中期に) RDB を日本に導入した エンジニア の一人であった。私は、当時、コッド 関係 モデル を中核にして、(コッド 関係 モデル は全体の構成を示す記法 diagramming をもっていなかったので、) コッド 関係 モデル を チェン ER手法で作図することを世間に普及した。しかし、「コッド 正規形を チェン ER図で記述する」 やりかたは、あきらかに間違いである。この間違いに気づいて、かつ、コッド 関係 モデル を意味論的に拡張することを狙って、私は、TM (T字形 ER手法) を作った。TM は、当初、T字形 ER手法とよんでいたので、世間では、チェン ER手法と同類のように思われていたようだが、TM の起点は コッド 関係 モデル である。コッド 関係 モデル に対して、意味論を強く適用したら TM になった次第である。

 コッド 関係 モデル を 「意味論的に拡張するために」、TM は、「event」 概念と 「resource」 概念を導入した。本節では、それらの概念を チェン ER手法と対比している。

 前回 述べたが、私は、「概念設計」 を認めていない。「論理設計」 のなかで、「構造」 を記述して、その 「構造」 は、論理的意味論として、事業過程 (正確には、管理過程) を指示し、かつ、「物理設計」 として対象となる 「構造」 と同一であるべきだと私は思っている -- ただし、使用する DBMS の性能次第では、いちぶ、論理 モデル を調整しなければならないが。「論理設計」 の技術 (論理的意味論の技術) として、私は TM を整えてきた。



[ 補遺 ] 2012416日)

 取り立てて補足説明はいらないでしょう。私は、1980年代に チェン ER法と コッド 関係 モデル を日本に導入普及した エンジニア の一人ですが、チェン ER法を認めていない──チェン 氏の論文を私は読んで、チェン ER法は 「図法」 にすぎない (モデル ではない) と判断していたので、チェン ER法を分析法とは皆目認めなかったし、コッド 正規形を図示するための図法 (diagram) としか認めなかった。だから、当時、私が日本に導入普及した やりかた は、「(構文論が パーフェクト な) コッド 正規形を図示するために チェン ER図を使う」 という やりかた でした。それが間違いである事は、本 エッセー の中で述べた通りです。そして、その間違いを是正するために、T字形 ER法 (TM の前身) を作った次第です。しかし、その T字形 ER法も、意味論では不完全だったので、T字形 ER法を補強して TM を整えた次第です。







 

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