2021年 3月15日 「9.1.4 解析 (analysis)」 を読む >> 目次に もどる


 「解析」 とは、数学的論法の ひとつであって、証明しなければならない対象 A が存在しているとき、A が成り立つためには B1 が成り立たなければならないことを示して、さらに、B1 が成り立つためには、B2 が成り立たなければならないことを示すというふうに、以下のように、順次、対象を導出する手順です──

     A → B1 → B2 → ・・・ → Bn.

 そして、A を、終いには、「既知のことがら」Bn に帰着する やりかた を 「解析」 と云います。

 この数学的考えかたを (事業分析のための) モデル に流用すれば、「解析」 の対象は 「情報 (文字列)」 です (現実的事象ではないことに注意されたい、その現実的事象を記述した 「情報」 が対象です)。複合命題 (複文) として記述されている 「情報」 (正確に言えば、ひとつの 「意味 (値)」 をもった単語が複数個 列べられている 「情報」──たとえば、受注入力画面とか出荷指図画面とか請求画面など──のこと) を対象にして、いくつかの要素命題 (単文)に分けていきます。たとえば、受注入力画面に記述されている 「情報」 として次の単語群を例にして考えてみましょう──

    受注番号 受注日 顧客番号 顧客名称 商品 コード 商品名称 商品単価 受注数

 この 「情報」 は次のことを記述しています──「この受注は、かくかくの日に、しかじかの名称の顧客から しかじかの名称の商品を単価 かくかく円で しかじかの数量の注文があった事実を入力する」。この 「情報」 は複文です、それを次のような いくつかの単文に解体します──

    (1) しかじかの受注 (受注番号) は かくかくの日に起こった。

    (2) しかじかの顧客 (顧客番号) は、かくかくの名称である。

    (3) しかじかの商品 (商品番号) は、かくかくの名称である。

    (4) しかじかの商品 (商品番号) は、かくかくの単価である。

    (5) しかじかの商品 (商品番号)[ 注文された商品 ] は、かくかくの数量である。

 それぞれの単文 (に入力される値) は、真偽を判断できる [ 命題です ]。
 ここまでが 「解析」 の手続きです。

 さて、モデル では、これらの単文を それぞれ そのまま モノ (entity) として扱う訳ではない。モデル とは、「模型・実例 [ 現実 (事実) の写像 ] 」 です──そのために、モデル のなかで扱う モノ (entity) は現実的世界と対比できる実存物 (beings) でなければならない。そのために、複文を解体した いくつかの単文を モノ (beings) として再構成 (統一) しなければならない。ここに至って厄介な問題が生じる──モノ とは何か、という定義が論点になる。

 数学は関係主義の立っていて、モノ とは 「関数」 のなかの変項として扱います。そして、或る限られた範囲 (domain) のなかで、変数として扱われる 「集合」 が問われる。モデル (現実の形式的構造)を作るうえで、絶対に破ってはいけない点は次の 2点です──

    (1) ユーザ 言語を変形しない。
       (指示規則)

    (2) できるだけ機械的に形式的構造を作る手続き (文法) が示されている。
       (生成規則)

 すなわち、いかなる記号 (単語) も、それに対する 「意味」 が保証されることなしに、新たな記号を導入してはいけない、かつ 既に導入された記号 (単語) を前提にして、文法的に正しい導出規則を適用して構成された記述は すべて 実際上 或る対象を指示していなければならないということです。簡単に言えば、事業のなかで実際に使われていない単語を持ち込まない、そして モデル を作成する論理規則が提示されていて、モデル のなかで扱われる モノ が事業のなかで実存する モノ である、ということ。

 ユーザ は、事業を効果的・効率的におこなうために、管理すべき対象に対して管理番号を付与しています──たとえば、先の受注入力画面の例でいえば、受注番号・顧客番号・商品番号が そうです、そして、日付 (受注日)・名称 (顧客名称、商品名称)・単価 (商品単価)・数量 (受注数) は、受注・顧客・商品のそれぞれに付帯する述語 (性質、条件) です。したがって、上述した 5つの単文は、次のように モノ として再構成 (統一) されます──

    { 受注番号、受注日、受注数 } { 顧客番号、顧客名称 } { 商品 コード、商品名称、商品単価 }

 これらが モデル 上の (そして、現実的世界の) モノ として扱われるのです。そして、「関係 (関数)」 のなかの変項として扱われる モノ なのです。数学では モノ は無定義語として扱われますが、事業分析を対象にした モデル では管理対象 (モノ) は次のように定義できます──

    モノ である =def 個体指定子を付与された管理対象である。

 個体指定子というのは、具体的には ××番号あるいは○○コード のことです。
 したがって、だれが モデル を作成しても モノ の数は同じです──事業上で扱われている モノ (管理対象) というのは、ひとりの システム・エンジニア の 「解釈」 で [ 言い替えれば、システム・エンジニア が実際の事業過程を観て判断して ] 決められるのではない。 □

 




  << もどる HOME すすむ >>
  目次にもどる