思想の花びら 2023年 8月 1日


 ●  アラン (哲学者) のことば

  結婚とは、成立した瞬間からおこなうべきあることであり、成就したあることではない。人は選んでもらった相手であろうとみずから選んだ相手であろうと、はじめの愛があにも明らかにしてはくれない以上、知らない人間とこの上なく親密な関係で一生をすごさねばならぬのに変わりはない。だから手をこまぬいているわけにはいかぬ、おこなわねばならぬ、性格を支配するのを目的とするあの性格の観察というものを僕は信用しない。(略) そういう観察は絵空ごとにすぎないのだが、不幸にして観察する人や、観察される人の法令によって現物となるのだ。「彼はああいう男」 という不吉な法令に 「いかにも自分はそういう男だ」 と答える。だがこんなことはうそなのだ。愛すべき性質の芽ばえはいつもそこにあるものだし、なごやかな気分はあらゆる装いをして人を楽しますものだ。もし真の愛が最もいいものを見抜く術でなければ、真の愛とはいったいなんであろうか。

 



 ●  亀井勝一郎 (批評家) のことば

  モンテーニュ の 「随想録」 (第一巻) の中で、私は 「哲学する目的は死に方を学ぶにあること」 という一章を最も愛読してきた。人は死について語るとき、必ず渋面をつくって深刻になるか、悲哀の眼差しを装うものだが、モンテーニュ はむしろ愉快そうに、時には意地わるげな微笑を浮べて死を語っている。それは彼にとっては快楽の真の味いを語ることと同じであった。

 


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