2004年 2月16日 作成 「基準編第10章 (命題論理方式)」 を読む >> 目次に もどる
2006年11月16日 更新  




T字形 ER図の作成法には、「命題論理方式」 と 「コード 体系方式」 がある。

 T字形 ER図の作成法には、以下の 2つがある。

 (1) 命題論理方式
 (2) コード 体系方式

 命題論理方式は、その名称が示しているように、命題論理を、そのまま、使う方式である。
 すなわち、1つの情報 (たとえば、画面とかレポートとか) を 1つの複文とみなして、1つの複文 (組立て) を、いくつかの単文に バラバラ にして、単文 (主語-述語) を entity とみなす やりかた である。
 コード 体系方式は、1つずつの データ 項目を単位にして、認知番号 (×× コード や××番号) を規準にしながら、entity を生成する やりかた である。
 いずれの やりかた を使っても、最終的な アウトプット は同じになる。

 2つの やりかた の使用比率は、たぶん、命題論理方式は 20%程度で、コード 体系方式が 80%程度だと思う。DA たちは、コード 体系方式を使うことが多い。コード 体系方式は、かって、100%近い使用比率であったが、ここ数年では、命題論理方式の使用比率が、次第に高くなってきている。命題論理方式の使用比率が高くなってきた理由は、小生が、最近、命題論理方式を教えることが多いからである。たとえば、早稲田大学 エクステンションセンター が開催している小生の講座では、命題論理方式を教えている。というのは、命題論理方式のほうが、エンドユーザ に教えやすいからである。コード 体系方式では、個々の データ を扱うので、データ 項目という用語を使うが、命題論理方式では、ことば (日常言語) を使いながら、教えることができる。

 命題論理方式の具体的な やりかた については、「論理 データベース 論考」を読んでいただくとして、本稿では、以下の 2点を述べたい。
 (1) 2種類の語彙
 (2) T字形 ER手法が生まれた理由

 
統語論 (数理モデル) と意味論は切り離して検討したほうがよい。

 2種類の語彙という意味は、命題論理方式を使って、情報のなかで使われている ことば を仕訳すれば-- 1つのT字形のなかで、左側と右側に、ことば を仕訳すれば--、左側には、「コード」 が記述されて、右側には、日常言語が記述される、ということである。コード は、事業に関与している人たちが、データ の通用 (情報の伝達) を円滑にするために導入された ことば である。したがって、コード を付与された データ は、1つのまとまった単位として考えられている。とすれば、コード を、entity 生成の規準として考えてよい。
 ただし、コード が妥当であるかどうか、という点は、改めて検討されなければならない論点である。というのは、たとえば、品目 コード が 34桁の桁数を使って記述されていて、7桁目の値が 「S」 という英文字であれば、社内消費用の品目である、というような コード は妥当ではない。なぜなら、1つのまとまった単位として、モノ を認知するための番号のなかに、アルゴリズム が混入しているから。

 認知番号の 「形式 (導入) 」 と認知番号の 「実質 (中味)」 は、べつの論点である。まず、形式 (コード) を基礎にして「構造」を作り、それから、(コード の妥当性をふくめて) 「構造」 の整合性を検討すれば、効率的かつ効果的な作業になる。すなわち、統語論 (数理モデル) と意味論は切り離して検討したほうがよい。

 T字形 ER手法の 「T字形」 は、当初、複式簿記の 「T勘定 (T-account)」 の形式を転用した。すなわち、借方 (左側) として、コード 体系を記述して(注1)、貸方 (右側) として、日常言語を記述する形式である。事業のなかで使われている日常言語を 「資本」 にして、コード という 「資産」 を形成する、という考えかたである。T字形勘定を起点にして、データ を仕訳して、ウィトゲンシュタイン 氏の「論理哲学論考」 のなかで扱われている以下の 2つの考えかたを理論的枠組みとした。
 (1) 統語論として、「主語-述語」 形式を使って、「構造」 を記述する。
 (2) 意味論として、写像理論を使って、「構造」 は、現実の事態と対応関係を検討されなければならない。

 
T字形 ER手法は、命題論理の推論 ルール (真理値表、あるいは、主選言標準形) を前提にしている。

 さて、統語論として、T字形 ER手法は、4つの推論 ルール として、まとめることができた。そして、論点になったのが、意味論としての写像理論である。この論点については、すでに、述べてきたので、再度、収録することはしない(「論考を読む」 の前々回および前回を参照されたい)。
 T字形 ER手法は、徹底して、命題論理の推論 ルール (真理値表、あるいは、主選言標準形) を前提にしている、という点を覚えておいていただきたい。この点を理解していないと、T字形 ER手法の推論 ルール のなかに、述語論理 (タイプ 理論という意味) を、場当たり的に混入されて、推論 ルール の整合性を崩されてしまう--小生が関与していない プロジェクト では、そういう間違った使いかた がされているようである (苦笑)。

 「構造」 が、いったん、生成されたら、データ 集合に対して、検証手段として、セット 概念を使うことは正しいが(注2)、「構造」 の記述は、あくまで、命題論理の推論 ルール に従う、という点を忘れないでほしい。

 
[ 注釈 ]

(注 1)
 コード 体系のなかには、以下の 2種類の コード がある。
 (1) 1つのまとまった単位の セット を記述するための コード (××コード、××番号)
 (2) 1つの セット のなかの サブセット を記述するための コード (××区分コード、××種別コード)

 (1) の コード は、T字形の左側に記述されるが、(2) の コード は、右側に記述される。
 (2) は サブセット を記述するので、単独の モノ を認知するための コード ではないので、右側に記述される。

 
(注2)
 T字形 ER図のなかで、セット 概念を使って周延を検証できる対象は、entity であって、対照表は、セット 概念では検証できない。対照表の検証は、主選言標準形を使う。ちなみに、主選言標準形とは、以下の正規形である。
 (p∧q)∨(p∧¬q)∨(¬p∧q)∨(¬p∧¬q).

 



[ 補遺 ] (2006年11月16日)

 「命題論理方式」 および 「コード 体系方式」 を、その後 (2006年に)、それぞれ、「情報仕訳法」 および 「データ 転記法」 という言いかたに変更しました。

 本 エッセー は、2年前に綴られていますが、当時、私は、論理的意味論を検討していました。いま、本 エッセー を読み返してみて、論理的意味論の検討成果が、いまだ、反映されていないようです。というのは、論理的意味論の用語 (指示規則、生成規則) を使えば、本文のなかに綴ったような クドクド した言いかたをしないで済んだはずですから。すなわち、以下のように単純に言えたはずです。

 (1) 1つの複文は、いくつかの単文の構成物である。
 (2) 1つの単文は、「S-P (主語-述語)」 形式である。
 (3) 主語は個体を指示する。
 (4) 個体指示子として、コード 体系のなかに定義されている管理番号を使う (指示規則)。
 (5) 指示規則は意味論として扱う。
 (6) 主語のあいだに成立する関係を 「関係の文法」 として構成できる (生成規則)。
 (7) 生成規則は構文論として扱う。

 モデル (modeling) は、論理的意味論であるならば、以下の 4つの規則を示さなければならない (カルナップ 氏の説)。

 (1) 指示規則 (真とされる個体・述語)
 (2) 生成規則 (真とされる個体・述語を使って真とされる文を作る文法)
 (3) 真理性 (真の定義)
 (4) 範囲規則 (真とされる集合の定義)

 したがって、指示規則 (意味論) を前提にして、文法 (構文論) を適用して作られた文が、真 (事実的な F-真あるいは導出的な L-真) であれば無矛盾かつ完全ということです。たとえば、TM (T字形 ER手法) では、2つの resource から構成される対照表は、もし、F-真を示しているのであれば、妥当であるこということです。ただし、この F-真 は、かならずしも、「事実と モデル との対応 (双射)」 にはならない点が、モデル の真理性で悩ましい点なのです。たとえば、サイズ・コード を考えてみれば、純粋な サイズ は、事実的な対応として検証される訳ではなくて、その ことば を使う人たちのあいだで 「合意された」 使用法のなかで真とされているのでしょう。

 対照表は、当初、命題論理で検証法の一般手続きとして使われている真理値表--事態の成立・不成立を調べる表--を ヒント にして作られましたが、対照表の 「意味」 は、「resource が event に侵入 (ingression) する」 という考えかた (ホワイトヘッド 氏の説) を前提にして、「event」 を言及するというふうに解釈されます。ただ、対照表を resource として解釈することもできます。たとえば、以下の 2つの resource を前提にして、対照表を考えてみましょう。

 (1) {サイズ・コード、名称、...}.
 (2) {生地 コード、名称、...}.

 この 2つの resource から構成される対照表 {サイズ・コード (R)、生地 コード (R)} は、「裁断」 という event として解釈できるし、「型紙」 という resource としても解釈できます。構文論上、対照表は、resource の束として、resource の文法を適用しますが、意味論上、「resource が event に侵入 (ingression) する」 という考えかた (ホワイトヘッド 氏の説) を前提にして、「event」 を言及するというふうに解釈するためには、event の定義に従って、対照表の性質として、「日付」 が帰属するとき、そして、そのときにかぎり、event を言及するとしています。
 もし、対照表の性質として、「日付」 が明示されていないか、あるいは、文脈のなかで 「日付」 を付与することができないのであれば、対照表は event を言及するというふうに解釈できないでしょうね。そのときには、「階」 を昇って判断しなければならないのですが--すなわち、「性質の性質」 を考えなければならないのですが--、(事業過程の モデル たる) 管理過程に対して、「メタ 管理過程」 は存在しないでしょう--数学に対して 「メタ 数学」 が存在しないのと同じように。

 





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