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2012年 8月 1日 補遺  


 「はしがき」 は、5ページ に及んで、本書の執筆目的を丁寧に綴っています。
 執筆目的は、一言でいえば、「T字形 ER手法を意味論の観点から検討する」 ことでした。

 本書を執筆する以前に、T字形 ER手法を単独に記述した著作として、以下の 2冊を出版していました。

  (1) T字形 ER データベース 設計技法 (通称、「黒本」 とよばれています)
  (2) 論理 データベース 論考 (「論考」 と略称されています)

 そして、本書 「データベース 設計論--T字形 ER」 は、通称、「赤本」 とよばれています。
 「黒本」 は、T字形 ER手法を はじめて まとまった形で記述した著作でした。
 当時、T字形 ER手法は、以下のように整備されていました。

    (1) 5つの技法
     (1)-1 identifier
     (1)-2 resource と event
     (1)-3 対照表
     (1)-4 対応表
     (1)-5 サブセット

    (2) 4つの ルール
     (2)-1 resource-対-resource
     (2)-2 resource-対-event
     (2)-3 event-対-event
     (2)-4 再帰 (recursive)

    (3) 2つの例外
     (3)-1 みなし entity
     (3)-2 turbo-file

 以上の まとめから推測できることは、当時、T字形 ER手法の体系は、実地に使っていた技術項目を列挙するにとどまっていたという点です。「赤本」 では、T字形 ER手法の体系は、以下のように整備されました (用語法は、「赤本」 を出版したあとで、いちぶ、訂正しました)。

    (1) 個体の認知 (「赤本」 では、「データ の認知」)
    (2) 個体の性質・関係の性質 (「赤本」 では、「データ の種類」)
    (3) 関係の文法 (「赤本」 では、「データ の関係」)
    (4) データ の周延
    (5) データ の多値

 T字形 ER手法の技術そのものは、「黒本」 と 「赤本」 で、ほとんど変わっていないのですが、「体系」 が いちじるしく変わっています。「赤本」 は、技術項目の列挙を捨て、それぞれの技術項目を 「体系化」 しています。この 「体系化」 を検討したのが、「論考」 と 「赤本」 でした。「論考」 は、以下の 2点を目的にして執筆しました。

    (1) T字形 ER手法の意味論を転向する。
    (2) T字形 ER手法を構文論の観点から検証する。

 T字形 ER手法は、当初、ウィトゲンシュタイン の前期哲学 (「論理哲学論考」) を礎 (いしずえ) にして作られましたが、その礎を かれの後期哲学 (「哲学探究」) に変えることが 「論理 データベース 論考」 の一番の目的でした。と同時に、T字形 ER手法の 「関係文法」 を構文論の観点から検討しました。ただ、当時、「意味論を転向する」 のみで知力を使い果たして、意味論そのものを検討できなかった次第です。「論理 データベース 論考」 を出版したあとで、T字形 ER手法は、「語-言語を分析する」 手法として、「言語の使用説 」 を堅持するようになりました--言い換えれば、事態の 「パターン 探し」 を嫌って、「事実を正確に記述する」 手法としての性質を強めました。

 そして、懸案になっていた意味論を検討したのが 「赤本」 です。
 「赤本」 では、T字形 ER手法を 「論理的意味論」 の手法として整えて、(カルナップ が示した) 「F-真」 (指示規則を適用して確認される 「真」概念--意味論上の 「真」) と 「L-真」 (生成規則を適用して導かれる 「真」 概念--構文論上の 「真」) を導入して、T字形 ER手法の使いかたを以下のように 「一般手続き」 として整備しました。

    (1) 「合意された」 認知番号を使って、「真とされる集合」 を作る。

    (2) 「生成規則 (関係文法)」 を適用して 「L-真」 を構成する。
       (構文論で モデル を作る)

    (3) 構成された 「L-真」 に対して、「指示規則」 を適用して、「F-真」 を検証する。
       (意味論で モデル を推敲する)

 「赤本」 に至って、かつてのT字形 ER手法は、(技術そのものは、ほとんど変わっていないのですが、) 様相が一変したので、T字形 ER手法の名称を TM (および、TM’) に変更した次第です。 □

 



[ 補遺 ] (2012年 8月 1日)

 「赤本」──「データベース 設計論--T字形 ER (関係 モデル と オブジェクト 指向の統合をめざして)」 の通称 (愛称?)──は、2005年に出版されました。この愛称は、(或る読者が付けて、) 読者たちのあいだでそう呼ばれているので、私もその呼称を使っている次第です。2011年で 3刷りになっています (そろそろ 4刷りに入るでしょう)。7年前に出版した著作なので、その中身も、そろそろ書き替えたほうがいい箇所が幾つか見られます。ちなみに、「赤本」 で論ずる事のできなかった 「モデル 論」 については、2009年に 「モデル へのいざない」 (通称、「いざない」) を出版しました。

 本 エッセー で綴ってあるように、「赤本」 で初めて TM という呼称を使いました──従来の 「T字形 ER法」 の呼称を TM に変更しました。呼称を変更した理由は、「T字形 ER法」 の意味論を大幅に変更したためです [ 構文論は、さほど変わってはいない ]。次のように言っていいかもしれない──「T字形 ER法」 の意味論を数学基礎論・言語哲学の通論に従って再新した、と。「赤本」 では、技術体系を次のように説明しています。

  (1) データ の認知
  (2) データ の種類
  (3) データ の関係
  (4) データ の周延
  (5) データ の多値

 しかし、この体系は、今では──「いざない」 を出版した後では──次のように再編されています。

  (1) entity
  (2) 関係の性質 (対称性、非対称性)
  (3) 関係 (全順序、半順序)
  (4) 集合 (セット 概念)
  (5) 多値関数
  (6) クラス 概念

 二つの体系の違いを観て直ぐにわかるように、TM は (「赤本」 を出版した後でも) 改良を施されて、モデル 論 (の通論) の用語法を (entity 概念を除いて) 取り入れています。TM の呼称は、当初、Turing Machine を倣って付けたのですが、今では、Theory of models の略だと強引に理屈をつけています (笑)。

 次回以降、「赤本」 の記述の変更点 (および、その理由) を 「補遺」 として綴っていきます。

 なお、本 エッセー の中で、次の文を綴っていますが、今となっては、間違いですので訂正します。

  「合意された」 認知番号を使って、「真とされる集合」 を作る。

 「真とされる集合」 は、モデル 制作の最初の段階では構成する事ができない──だから、先ず、大雑把な entity を作って、その後に (数学的な) 「集合 (セット)」 として調えて、更に、意味論的に (事業を分析するために) クラス 概念を使う、という手続きが正しい。ただ、モデル (TM) は、次の手続きで構成する事は、今も変わってはいない。

  合意された語彙 (観察述語)→ L-真の構成 (構文論) → F-真の験証 (意味論)。





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