2008年 8月 1日 「技術編-9 データ の類別」 を読む >> 目次にもどる
2014年10月 1日 補遺  


 

 「event」 概念と 「resource」 概念は、TM の最大の特徴点になっていますが、その からくり を説明すれば、どうってことのない概念です。これらの概念は、一言でいえば、「関係の対称性・非対称性」 という性質を示したのですが、これらの概念の前提になっている考えかたは、以下の 2 つの数学的技術です。

  (1) 外点、特徴関数、閉包
  (2) 「規約 T」 (真理条件)

 まず、外点・特徴関数・閉包を説明します。集合 A を考えて──なんらかの性質をもつ元 { a1, a2,・・・, an } を集めた セットで、しかも、それらの元を並べるための関数 [ f (a1, a2,・・・, an)、ちなみに、この関数を特徴関数と云います ] があって──、その集合の外 (そと) で、他の元 (たとえば、b) を考えて──元 b が帰属する集合を B として──、集合 A に対して 元 b を足したときに、特徴関数 f (a1, a2,・・・, an, b) を構成できるかどうかを調べます。そして、もし、b が特徴関数 f のなかで充足すれば、b は、集合 A の元といっしょに扱っても良いでしょう。すなわち、集合 B は集合 A をふくんで、さらに、拡がっているということです。この集合 B のことを 「閉包」 と云います。しかし、もし、外点 b が特徴関数 f で並べることができなければ、集合 B は、集合 A に対して、べつの集合として扱うしかないでしょうね。

 さて、「event」 は、TM では、「日付」 をもつ行為 (あるいは、「できごと」) で構成される entity です。それらの特徴関数は、「日付」 を規準にした関数です──「法則」 として、「日付」 を規準にするのが妥当かどうかは争点になるのですが、対象範囲 (domain) を、自然言語で記述された・事業過程・管理過程のなかで伝達される 「情報」とすれば、大丈夫でしょう。この特徴関数のなかに、「性質として 『日付』 が帰属しない resource」 を足しても、特徴関数を作ることはできない。

 では、「event」 および 「resource」 を考えるときに── entity の クラス を考えるときに──、どうして、「日付」 を判断基準にしたのかと言えば、自然言語で記述された文の 「真」 を験証したかったからです。そのために、TM は、「(事実的な) F-真」 概念・「(導出的な) L-真」 概念を導入したことは、以前の エッセー で述べました (「理論編-2 および理論編-7 を参照されたい)。

 観察語彙に対して、文法を適用して 「文」 を構成したときに、その 「文」 が 「F-真」 であるかどうかは、以下の 「規約 T (『T-文』 とも云いますが)」 を判断規準にします。

    文 p が 「真」 であるのは、時刻 t において、事態 q と対応するとき、そして、そのときに限る。

 TM は、上述したように、「モデル (論理的意味論)」 の規則を守っています。
 ただ、ここで 2 つ注意をしておきます。

 まず、一つめの注意は、entity を分類するときに、「排中律」 を使っているという点です。数学では──「無限」 を対象にする領域では──、「排中律」 を使うことは争点になりますが、われわれ システム・エンジニア が モデル を作る対象にしている事業過程・管理過程は 「範囲が限定されている」 ので、「排中律」 を使っても良いでしょう。そして、TM では、「排中律」 を使う際、矛盾が起こらないように、「resource」 は、あくまで、「event」 の補集合として扱われます。すなわち、entity を定義して、その entity を 「2 つの」 クラス に分割する際、「event」 を定義して、「resource」 を その補集合としています。そうした理由は、もし、「resource」 を定義したときに、以下のような矛盾が起こらないように配慮したからです。

  (1) 「event」 かつ 「resource」 (「p ∧ ¬p」 という矛盾)
  (2) 「event」 でも 「resource」 でもない (「¬p ∧ ¬(¬p)」 という矛盾)

 そうすれば、それらの entity を対象にして、すべての組 (event-対-resource、event-対-event、resource-対-resource、再帰) の文法を用意すれば良いだけになります。文法に関しては、後日、説明します。

 注意点の二つめは、本書で (「event」 と 「resource」 の分類に関する判断に対して、「見出し」 として) 「データ の類別」 という言いかたをしていましたが、出版後に、「個体の性質・関係の性質」 という言いかたに変えた、という点です。ただ、「関係の対称性・非対称性」 が、個体そのもの-の 「性質」 から起こる現象なのか──実体主義的な観点で説明できるのか──、それとも、「関係」 として組んだ特徴関数が示す現象なのか──関係主義的な観点で説明できるのか──、いまの私には判断できないので、「個体の性質」 と 「関係の性質」 を並記しています。 □

 



[ 補遺 ] (2014年10月 1日)

「個体の性質、関係の性質」 という概念は、「関係 R と関数 f」 という概念に変更しました (2014年)。

「関係 (relation)」 は、数学上、直積集合の部分集合です。したがって、ひとつの entity は、n-ary relation (多項の直積、すなわち tuple) として記述されます。そして、いくつかの entity の整列は、関数 (特性関数) を使って形成されます。数学の モデル 論は、集合論と関数論を基本にして、記号列の関係を分析します。つまり、モデル 論では、「集める」 技術と 「並べる」 技術 を学習すればよいという事です。
ただし、いくつかの entity のあいだの関係 (日常語としての関係、「関連 (relationship)」と云います) は、「関与 (ingress)」 として表現されなければならない。

TM では、集合 (tuple) は個体指示子を使って ラベル 付けされます。ラベル 付けされた集合は、順序の付けかた (全順序と半順序) によって 2種類の クラス に分けられます。全順序は 「値の大小関係」 で並び、半順序は (値の大小関係ではなくて、) なんらかの並べかた [ たとえば、アルファベット 順とか ] で整列することをいい、「関係の対称性」 (この性質をもつ集合の クラス を resource と云う) が半順序に対応し、「関係の非対称性」 (この性質をもつ集合の クラス を event と云う) が全順序に対応します── event は、「日付 (取引日)」 の値の大小関係で並べられます。

そして、ラベル 付けされた集合の 「個体指示子」 を関係式 R(a, b) の項として使い、2項関係で 「関連」 (entity の関与のしかた) を記述します──(a, b) の組み合わせは、次の 4通りになります。

a ≠ b のとき

 1. (event, event)
 2. (resource, resource)
 3. (event, resource)

a = b のとき

 4. 再帰 (recursive)

ちなみに、resource という概念は的確ではないので、変更したいと思っているのですが、なかなか良い英語訳 (event (出来事・行為) に関与する モノ を表す 「単純な」 単語) が私には浮かばない、、、。




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