2008年 8月16日 「技術編-10 T字形 ER手法の記法」 を読む >> 目次にもどる
2014年10月16日 補遺  


 

 「event」 が性質として 「時刻 t」 をもっているのであれば、時系列のなかで並べることができ、「resource」 が 「関係の対称性」 を示す性質であれば、(アルファベット 順とか五十音順に) 並べることが無意味なので、「event」 とは違う規則を適用されることは前編 (技術編-9) で説明しました。

 本編では、「構成」 を作る前段階として──関係文法を適用する準備として──、entity の配置のしかたを説明していますが、「構成」 のなかで──関係文法のなかで──、「resource」 が勝負点になることを指摘しています。すなわち、entity を配置した段階で、entity に関する視点が、「event」 から 「resource」 に移っているということです。すなわち、「resource」 を重視する視点に移っているということです。この 「視点の移行」 は、哲学的に難しい争点を内包しています。「個体と関係」 を考える際、哲学では、以下の ふたつの考えかたがあります。

 (1) 実体主義 (個体が一次的で、関係は個体のあいだで二次的に起こる)
 (2) 関係主義 (関係が一次的で、個体は、関係のなかの変項である)

 科学では、関係主義を前提にして 「構成」 を考えるのが一般的です。すなわち、個体が一意で存在するということをさておいて、個体を一意に措定できる アルゴリズム (関数) がある──あるいは、そういう関数を定立する──という考えかたが 科学的な考えかた です。私は システム・エンジニア なので、基本的に、この考えかたを遵守しています。ただ、いっぽうで、ふだんの生活のなかでは、「常識的な」 判断として、「物」 が認知されて、物と物とのあいだで関係を考えているのも事実でしょうね。実体主義と関係主義との調整が、データ 構造を作るうえで、私にとって悩ましい争点になっています──この悩みを私は拙著 「論理 データベース 論考」 の 「あとがき」 のなかで吐露しています。

 関係主義を前提にすれば、「関係」 は、直積集合の部分集合であって、以下の一般式で記述されます。

    R { s1 ∈ X1, s2 ∈ X2,・・・, sn ∈ Xn ∧ P (s1, s2,・・・, sn) }.

 X1 や X2 のように添字のついた X は、(空でない) 集合 [ セット ] で、s1 や s2 のように添字のついた s は、それぞれの セット の元 (メンバー) です。すなわち、この式は、(空でない) 集合から元を一つずつ選んできて、並べたら集合になることを記述しています。ここでは、個体は、あくまで、変項です。そして、この式のなかの変項は、TM が云う 「entity」 です。したがって、変項には、「event」 も 「resource」 もふくまれています。ちなみに、「entity」 という観点から云えば、変項のなかで、「event」 に対応する個体を 「関連型 entity」 と云い、「resource」 に対応する個体を 「主体型 entity」 と云います。すなわち、「直積」 では、「event」 であれ 「resource」 であれ、個体として同列で扱われています。

 現実的世界は、事態のあつまりであることは事実でしょうね。言い換えれば、現実的世界を記述するには、まず、事態を認知するしかない、ということです。現実的事態は、時系列のなかで起こる一連の事態 (case) のあつまりとして記述できるでしょう──すなわち、R { c1, c2,・・・, cn }. ここで云う事態が TM で云う 「event」 です。

 事態のなかに、「主体 (subject)」 が関与しています。主体と事態とのあいだには、2項関係を前提にすれば、R { s, t(e) } ──しかじかの s は、時刻 t において、しかじかの行為 e をおこなった──という関係が成立するでしょう。そして、この点が、実体主義と関係主義とのあいだで争点になってきた点です。というのは、関係 aRb において──「a は、b に対して関係 R にある」 と読みますが──、a と b を主体 (subject) どうしであるとすれば、R { a, b } という 2項関係は、なんらかの事態を言及するのではないか──あるいは、正確に言えば、なんらかの事態を言及すると 「解釈」 できるのではないか──という点が争点になります。すなわち、ふたつの集合を前提にして和集合を考えて、その和集合に対して f(x) という 「性質」 を考えることができるのではないか、という 「解釈」 が争点になります。たとえば、{ 従業員, 部門 } という関係は 「配属」 という事態を言及するのではないか、ということです。言い換えれば、2項関係が 3項態を示しているのではないか、という点が 「解釈」 として成立するということです──すなわち、R { s1, s2, t(e) }. したがって、もし、{ 従業員, 部門 } の組に対して、時刻を付与できれば、この組は、あきらかに 「event」 として 「解釈」 できるということです。とすれば、「関係」 の視点を逆転して、「主体」 が一次的で 「主体」 のあいだに関係が起こるとしても良いということです。この視点が実体主義的な視点です。ただ、実体主義の弱点は、個体を 「定義」 できないという点にあります。たとえば、時計を例にすれば、時計の総体が 「個体」 として認知されるのか、それとも、時計は、文字盤とか時刻針とか リューズ とかのあつまり (構成物) であって、「個体」 は、寧ろ、文字盤とか時刻針とか リューズ であるとしても、さらに、文字盤とか時刻針とか リューズ は、加工物であって、「個体」 は、真鍮とか鉄などの原材料とするか、、、無限後退に陥ります。その無限後退を断ち切るためには、「個体」 を認知するために、なんらかの個体指定子 (entity-setter) を導入しなければならないでしょうね。そして、事業過程・管理過程で伝達されている 「情報」 では、個体 (管理対象) を認知するために管理番号が導入されています。この管理番号を TM は個体指定子として使っています。

 上述したように、TM は、「event」 と 「resource」 を導入したことで、関係主義と実体主義が混成される体系になりました。また、「関係の対称性・非対称性」 を意識して、entity を 「event」 と 「resource」 の ふたつの クラス に分割したので、「関係」 に対して 「関数」──すなわち、変項を すべて一律に並べる関数──を一律に使うことができない。そのために、(「関数」 を使いながらも、) いくつかの関係文法を用意しなければならない。その関係文法が次編の テーマ になります。 □

 



[ 補遺 ] (2014年10月16日)

数学上は、記号の集まりを なんらかの 「意味をもつ」 クラス に分類する事はないと思います (私は数学者ではないので、断言できない)。しかし、事業構造を分析する場合には、事業 プロセス の連続とそれらに関与する資源という視点は不可欠です。その視点 (事態とそれに関与する事物)は、数学上、「関係の対称性・非対称性」 および 「半順序・全順序」 を適用する事ができます。しかも、それらを管理するために、事態・事物は、「主題」 (言い換えれば、「情報」) として管理番号が付けられています──この管理番号を 「個体指示子 (entity-setter)」 といい、たとえば、従業員番号、製番号、受注番号、請求番号などが例示できるでしょう。すなわち、事態・事物 (entity) は、管理番号を使って認知され、「情報」 として伝達されています。そのために、TM では、entity を次のように定義しています。

 Entity である =DF 個体指示子が付与されている対象である。

そして、entity は、事態 (event [ 関係の非対称性、全順序 ] ) と事物 (resource [ 関係の対称性、半順序 ] ) という 2つの クラス に分類する事ができます。事態を 「関連型 entity」 と云い、事物を 「主体型 entity」 を云います。それらの定義は、次の通り──

 Event である =DF 条件として 「日付」 が帰属する。

 Resource である =DF event 以外の entity である。

ここでの注意事は、resource は (entity の中で) event の補集合であるという事です。つまり、Resource は定義できない。Entity を event とその補集合というふうに分類したので、それらの関係 (関連) は、次の 3つが考えられます。

 (1) { event、resource }.

 (2) { event、event }.

 (3) { resource、resource }.

さらに、ひとつの集合の中から、メンバー をいくつか選んで並べる 「再帰 (recursive)」 を考慮して、「関連」 として 4つの文法が考えられます。

ちなみに、resource を event の補集合としているので、event かつ resource とか、event でも resource でもないという矛盾は起こらない。したがって、それらの関連を構成して造られた構造は──「関連」 の文法が整合性ある規則を守っていれば──矛盾を生じる事はないはずです。

そして、entity のあいだの関連 (日常語の 「関係」) は、TM では、T字形記法の左側で示されます (T字形記法の右側が 「関連」 を示すことはない)。T字形記法では、「集める」 および 「並べる」 は、次の様に構成されています。

   集める──────────→

 | { 主題1,条件1、・・・、条件m-1 }.
 |        ・
 |        ・
 |        ・
 | { 主題n,条件m、・・・、条件z }.
 ↓
 並べる

つまり、TM では、ひとつの 「主題」 を記述する諸条件が集められ、それぞれの 「主題」 を並べて、事業の 「意味」 (事業構造) を表す構成になっています。




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