2009年 9月 1日 「実践編-2 アトリビュート・リスト」 を読む >> 目次にもどる
2018年 6月15日 補遺  


 

 「実践編」 の二番目に 「アトリビュート・リスト」 を置いています。「実践編」 において私が重視したかった点は、前回 述べたように、以下の 2点です。

 (1) 「リレーションシップ の検証表」 (「関係」 の網羅性)

 (2) 「アトリビュート・リスト」 (「制約・束縛」 の網羅性)

 いずれの リスト も、「網羅性」 を配慮しています──「リレーションシップ の検証表」 では、「『関係』 の網羅性」 を、「アトリビュート・リスト」 では、「『制約・束縛』 の網羅性」 を配慮しています。

 さて、アトリビュート・リスト は、アトリビュート ごとに作成されて、ひとつの アトリビュート に関して、「最低限」、以下の 4つの欄を記述します。

 (1) データ 属性

 (2) 前提 (制約・束縛)

 (3) 機密性 (lock)

 (4) 計算式

 それぞれの欄のなかに どのようなことを記述するか については、本書 (「赤本」) を読んでいただくとして、本 エッセー では、「前提 (制約・束縛)」 の網羅性について いくつかの注意を述べます。

 (「アトリビュート・リスト」 を作成する前に、) 「リレーションシップ の検証表」 を使って、entity のあいだで 「関係の網羅性」 を検証します。すなわち、entity のあいだで、関係 R ( a, b ) を網羅的に かつ正確に定立します。言い換えれば、「文脈」 を措定していると謂っていいでしょう。

 Entity そのものには 「意味 (絶対的な 「真」)」 はないのであって、entity の 「意味」 は、「(文の) 解釈」──すなわち、関係 R ( a, b ) ──から独立して指示できる訳ではない、ということです。言い換えれば、「指示 (意味)」 は、「枠組み (文脈)」 の総体を前提にした全体論的な 「『解釈』 の内部 (from inside)」 からしか確定できない、ということ。この点を、数学上、証明した定理が 「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 です。言語哲学では、クワイン 氏や デイヴィドソン 氏 が提示した 「翻訳の不確定性 (indeterminacy)」 「指示の不可測性 (inscrutability)」 という概念です。単純に言い切ってしまえば、「意味」 は、「文脈」 のなかで成立する、ということです [ モデル の外側に、「(絶対的な) 真」 など存在しない、ということです ]。この点を実地の モデル 作成では、以下のように指導しています。

  「箱 (entity)」 ではなくて、「線 (関係)」 を観なさい !

 
 モデル では、以下の 2点が構成要件とされます。

 (1) 生成規則 (すなわち、文を構成する 「文法」)

 (2) 指示規則 (すなわち、項が指示する 「意味」)

 生成規則を扱う学問領域を 「構文論」 と云い、指示規則を扱う学問領域を 「意味論」 と云います。「構文論」 では 「無矛盾性」 が重視され、「意味論」 では 「完全性」 が重視されます。これらの規則 (および、それらの規則で実現される性質 [ 無矛盾性・完全性 ]) を べつの言いかたで謂えば、以下の 2点のことです。

 (1) 「妥当な」 構成

 (2) 「真とされる」 値

 「リレーションシップ の検証表」 は、「妥当な」 構成を実現するために用意された リスト です。「妥当な」 構成を実現するのが 「論理法則 (文法)」 です。ただ、「論理法則」 は、「妥当な」 構成を実現しても、その構成のなかに充足される値の 「真」 を定立している訳ではない。というのは、「論理法則」 は 「形式的構成」 の無矛盾性を実現するのみであって、その構成のなかの項が いかなる値をとるか (付値) は べつの争点だから。付値には、以下の 3つの状態があります。

 (1) 恒真 (「つねに」 真)

 (2) 充足的

 (3) 恒偽 (「つねに」 偽)

 「恒真」 は 「充足的」 のなかにふくまれます。言い換えれば、「充足的」 のなかで、「恒真」 以外の値が 「真」 であることの証明 (あるいは、制約・束縛) が明らかにされていなければならない、ということになります。この 「充足的 (ただし、恒真を除く)」 という値は、現実的事態に対比して 「true」 という状態です。したがって、「充足的」 は、「論理法則」 から導出されるのではなくて、現実的事態との関係で験証される値です。

 事業過程・管理過程を対象にした モデル では、「充足的」 な値が 「真とされる」 値になるかどうかは、取引上の制約・束縛で判断されます。たとえば、「受注量」 という項において、「取引先」 が取引を開始して 10年未満であれば、100万円を超えてはならない、という制約・束縛など。そういう文脈であれば、「受注量」 の付値として、「99」 は 「真」 であっても、「100」 は 「偽」 とされるでしょう。文脈のなかで──言い換えれば、「妥当な」 構成が定立されている状態で──、それぞれの項の付値を 「真」 とする制約・束縛を網羅的に験証するのが 「アトリビュート・リスト」 です。

 モデル に興味を抱いている人たちは、往々にして、TMD (TM Diagram、T字形 ER図) のみに夢中になりますが、TMD は単に 「妥当な」 構成を示しているだけであって、「真とされる」 値を請けあう訳ではない点に注意してください。モデル は、「妥当な」 構成と 「真とされる」 値が揃ってはじめて モデル たりえるのだから。したがって、「アトリビュート・リスト」 は、TMD と並ぶ重要な リスト です。ただし、「真とされる」 値を験証するためには、「妥当な」 構成が前提になっている点も注意していてください。言い換えれば、「妥当な」 構成が定立されてはじめて、「真とされる」 値の験証ができる、ということです。 □

 



[ 補遺 ] (2018年 6月15日)

 取り立てて補足説明はいらないでしょう。

 ひとつだけ注意しておけば、DA (Data Analyst) の多くが TMD (TM 図) にばかり興味を示して 「アトリビュート・リスト」 に対して なかなか 興味を抱かないのですが、本文中に綴ったように、モデル は 「妥当な構造」(「関係」 の網羅性) と 「真とされる値」(「制約・束縛」 の網羅性) の ふたつが揃って完全性を実現します。「アトリビュート・リスト」 を あだやおろそかに思わないでください。






  << もどる HOME すすむ >>
  目次にもどる