2023年 2月 1日 「2.4 文は矛盾か充足可能かのいずれかである」 を読む >> 目次に もどる


 本節では、モデル 論の起点になった 「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 を概説しています。そして、モデル (「真とされる」 値) の存在性を明らかにするために、構文論 (記号の関係) と意味論 (記号の関係 [ 構文 ] の 「解釈」) を混同しないで扱うことを述べています。

 論理式 (関係の演算、ただし第 1階の述語の演算) を扱うのであれば、論理式が無矛盾であることは 形式上 当然として、その論理式が対象としている領域では、式の値が充足されること、すなわち 式が可算の個体領域の モデル をもつことを レーヴェンハイム は証明しました。レーヴェンハイム の証明は 「有限個」 の論理式についての証明だったのですが、それを 「無限 (可算無限)」 を対象にして拡張したのが スコーレム です。それゆえ、二人の名前を連名にして 「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 と云います。この定理が起点となって、構文論と意味論が数学 (数学基礎論) 上の 1つの研究領域になりました。

 「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 は、簡単にまとめれば、個体領域 を D として、そのなかの記号の 「解釈」 を I とすれば、モデル は (D, I) の組であり、命題の真・偽は、それぞれの記号に対して D のなかの対象を付値する、ということです。つまり、記号のなかに演算の条件を満たす値が充足されるならば モデル であるということです。言い替えれば、モデル の外側に絶対的真が存在しているのではなくて、対象領域を前提にした全体的な 「解釈」 の内部 (from within) からしか 「指示 (意味)」 を確定できない、ということです。当然ながら、「解釈」 の前に論理式が立てられていることが前提です。そして、この定理は、現代哲学 (クワイン、デイヴィドソン、パットナム などの哲学者) に影響を与えました。ちなみに、私は、形而上学的な 「本質」 とか 「実体」 (絶対的真) という語を使わない理由は、この定理を モデル 作成の指針にしているからです。

 「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 では、論理式において値 (の充足可能性) とその 「解釈」 ということを覚えておいてください。なお、事業分析・データ 設計のための モデル では、対象領域の 「情報 (文字列)」 には、(null が生じる場合 [ 任意入力 ] を除いて) 値が必ず存在しています。ただし、その値が 「論理式の条件を満たす 『真とされる値』」 かどうかは疑わしい場合があります。ゆえに、事業過程・管理過程を写像した形式的構造 (モデル) では、形式上の無矛盾性および 「真とされる」 値が構文論および意味論として論点になることを ここで注意しておきます。構文論が論点になる理由は、事業分析・データ 設計では、項とその値という 「1-対-1」 対応 (意味の対象説) だけではなく、事業構造のなかでの項の使われかた (意味の使用説、[ meaning ]) が問われるからです。したがって、形式上 (すなわち、論理上)、構文論 (写像、すなわち関数) を配慮しない モデル など有り得ない。 □

 




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