2019年 3月15日 「2.2 写像」 を読む >> 目次に もどる


 「写像」 は、「変換」 とか 「関数」 と同じです──「変換」 は幾何学的問題で使われ、「関数」 は解析的問題で使われることが多いようです。集合の対応にも よく使われ、抽象的な取り扱いをする場合では、ほとんど 「写像」 を用います [ モデル 論では、「関数」 という語を使います ]。

 集合 S1 の任意な元に対して集合 S2 の 1つの元を対応させる法則 f を 「写像」 といい、次のように記述します──

   f : S1 → S2.

 f によって x∈S1 が y∈S2 に対応するならば、f (x) = y と記述します。x に対して y (すなわち、f (x)) が存在しない場合を、f (x) は 「定義されていない (undefined)」 と云います──これを 「部分関数」 と云います。いっぽう、f (x) がすべて存在する f のことを 「全域関数」 と云います。

 「写像」 には、「全射」 と 「単射」 という二つの対応関係があります (それぞれの例については 「いざない」 を読んでください)。「全射」 かつ 「単射」 のことを 「全単射」 と云います──すなわち、2つの集合が対応して、かつそれぞれの集合の元が 「1対1」 に対応することを云います。「全単射」 のことを 「双射」 と混同している人がいますが、ふたつは違う。「双射」 とは、(「全単射」 のとき y に対して x を対応させることができるので) 逆関数 f-1 が成立することを云います──つまり、双方向で 「1対1」 に対応するということ。

 ふたつの集合 (X と Y)において双射が成立するなら、X と Y は 「同数」 となります。「同数」 のことを集合論では 「同濃度」 と云います。双射は、「基数 (cardinality)」 の基礎となっています。

 ふたつの集合 (X と Y)において、X を 「命題」 の集合{ x1,.... xn } として、Y を 「真 (T)」 と 「偽 (F)」 という 2つの値の集合 { T, F } とすれば、Y = f (X) を考えることができます──この関数のことを 「真理関数」 と云います。

 「写像」 は、抽象的な取り扱い (モノ の 「構造」 を考えるなど) では基本となる技術ですので、ぜひ習得してください。実地の事業過程で扱われる データ では、数学のように全単射が成立しない事態が多い──例えば、1つの 「受注」 データ に対して、複数の 「請求」 データ が対応する事態とか。ふたつの集合の 「写像」 を元の対応からみれば、「全射」 は 「複数-対-1」 対応であり、「単射」 は 「1対1」 対応です。つまり、「関数」 とは 「複数-対-1」 および 「1対1」 のことを云い、「1-対-複数」 は 「関数」 にはならない。

 情報工学では モデル 図において ふたつの集合の元のあいだの対応性 (1対1、1-対-複数、複数-対-1、複数-対-複数) を明示しています。「受注」 と 「請求」 の 「1-対-複数」 関係が 「関数」 として扱われる理由は、「請求」 には 「受注」 に対応する 「制約束縛」 が付帯されているからです──たとえば、一つの 「受注」 で 100個の注文があって、複数の 「請求」 において 1回目の 「請求」 では 60個に対して請求して、それ以後の請求では残りの個数に対して請求して、請求する 個数が 100個になったら請求が終了するという 「制約束縛」 が作用するからです。

 この 「制約束縛」 は モデル 図上には記述できない。モデル が完全であるためには、「『関係』 の網羅性」 のほかに 「『制約束縛』 の網羅性」 が完備されていなければならないということです。そうすれば、「1-対-複数」 の関係であっても、「関数」 として扱うことができる。ちなみに、「複数-対-複数」 の関係は、「1対1」 に変換する mapping リストを用意して 「関数」 扱いにしています。 □

 




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