2019年 4月 1日 「2.3 ZF の公理系」 を読む >> 目次に もどる


 「2.1 集合」 の節で ツェルメロ の公理的集合論が登場してきた背景を述べました。ツェルメロ の集合論は次の特徴をもった体系です。

 (1) 9つの公理をもつ形式的体系である。
 (2) 等号をふくむ第一階述語論理を使って形式化されている。
 (3) ∈ 以外の述語を使わない。

 9つの公理については、「いざない」 を読んでください。さて、ツェルメロ の用いた 9つの公理のなかの 1つ 「置換公理」 を フレンケル が入れ替えました──その入れ替えを ツェルメロ は反対したのですが、数学者たちは フレンケル の 「置換公理」 を使うようになったので、この公理系を ツェルメロ と フレンケル の二人の名前の頭文字を使って 「ZF の公理系」 と云うことが多い。

 集合論を作った カントール は、集合の 「並び」 を苦慮していました──すなわち、「すべての集合は整列可能かどうか」 という問題です。その ソリューション として、ツェルメロ は 「選択公理」 を提示しました。「選択公理」 とは、「空でない集合のそれぞれから 1つずつ元を選んできて、並べることができる (整列可能)」 ということです。つまり、空でない集合のそれぞれから元を 1つずつ選ぶ関数 [ 選択関数 ] が存在するという公理です。

 数学の専門書によれば、「選択公理」 の証明は哲学的 ソリューション であって、数学的 ソリューション ではないので、数学者たちのなかには 「選択公理」 を認めない人たちもいるそうですが、いちぶの数学領域を除いて、現代数学は 「選択公理」 を前提にしているそうです。

 フォン・ノイマン は、記号論理を使って集合論をさらに形式化して拡張しました。そして、ベルナイス と ゲーデル が ノイマン の形式化を単純な体系に整えました。この形式的体系を (ベルナイス と ゲーデル の名前の頭文字を使って)「BG の公理系」 と云います。「BG の公理系」 では、A (u) を任意の集合論的論理式としています。A (u) の存在は 「ZF の公理系」 から得られない──分出公理 { u ∈ a │ A (u) } を思い出してください。{ u ∈ a │ A (u) } を前提とした 「ZF の公理系」 で扱われる集合を 「セット」 と云い、「BG の公理系」 の { u │ A (u) } を 「クラス」 と云います。

 数学の専門書によれば、「ZF の公理系」 で証明される集合論的論理式は 「BZ の公理系」 で証明され、「BG の公理系」 で証明される集合論的論理式は 「ZF の公理系」 で証明できるそうです。フレンケル の 「置換公理」 を先ほど述べましたが、「置換公理」 とは、u ∈ a について、A (u) があるなら、A (u) は集合 (セット) になるという公理です。そうだとすれば、我々 システム・エンジニア が実地に システム を作る際、セット と クラス は同じであるとみなしていいのではないか。無限を前提にしている数学とは違い、システム を作るには範囲を限って (すなわち、しかじかの事業を対象にして、かくかくの システム を作ること)技術を適用するので、「クラス」 A (u) は { u ∈ a │ A (u) } と同じになって、セット と クラス は実務的には同じとみなしていいでしょう。勿論、数学的には ZF と BG は公理系が違うのだから セット と クラス は違うのですが、実際の システム 作りでは セット と クラス は同じとみなして問題はないでしょう。 □

 




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