2021年10月15日 「11.3 特徴関数」 を読む >> 目次に もどる


 N を自然数の全体として、集合 S ⊆ N に対して、(x1,・・・, xn) ∈ S のとき 0 として、そうでないとき 1 を対応させる関数 Cp(x1,・・・, xn) を S の 「特徴関数 (characteristic function、あるいは特性関数)」 と云います。簡単に言えば、S の元について 「並び (値の大小関係)」 が成立して真となる関数 [ 原始帰納的関数 ] ということ。ちなみに、原始帰納的関数は、ほとんどの関数をふくんでいて、コンピュータ で扱う関数のほとんどが原始帰納的関数であるとのこと──ただし、原始帰納的関数は 「計算可能」 なすべての関数をふくんでいる訳ではないそうです、たとえば アッケルマン 関数は原始帰納的関数ではないとのこと。こういう関数論の詳細は、私のような数学の シロート には 皆目 わからないので、私は数学の入門書から記述を借用しているだけです (苦笑)。

 「特徴関数」(の考えかた) は、モデル TM の改良に多大な貢献をしました。
 先ず、T字形 ER法から TM へと変わっていった過程を述べてみます。T字形 ER法と かつて云われていた データ 設計技術を TM と云う モデル 技術へと拡張するときに、理論的整合性を検証するために私は 「数学基礎論」 の技術を根底に置きました──T字形 ER法は、実地に使ってきた技術を体系化しただけであって、無矛盾性 (健全性)・完全性を検証していなかったので、無矛盾性・完全性を満たすために 「数学基礎論」 の技術を使って T字形 ER法を改良して再体系化することを私は狙っていました。「数学基礎論」(および分析哲学) の学習を本格的に始めた時期は 1996年頃です──拙著 「T字形 ER データベース 設計技法」(通称 「黒本」) が出版された年が 1998年なので、出版のために T字形 ER法を体系化しつつ傍ら 「数学基礎論」 の学習を進めていたという次第です。「数学基礎論」 の学習成果を出版したのが拙著 「データベース 論考──データベース 設計方法: 数学の基礎とT字形 ER手法」(2000年、通称 「論考」) です──「論考」 では、私が 「数学基礎論」 を学習し始めた頃の成果を公にした書物なので、その中身は構文論が主体になっていて、意味論 (モデル 論) が ほとんど言及されていなかった (すなわち、意味論が手薄になっていました)。一応、「論考」 の学習成果を基礎にしてT字形 ER法を改良した拙著が 「データベース 設計論」(2005年、通称 「赤本」) です。そして、手薄になっていた意味論を検討した拙著が本書 「SE のための モデル への いざない──データモデルとは何か?」(2009年、通称 「いざない」) です。「赤本」 のなかで示された モデル 技術が TM1.0であって、「いざない」 のなかで提示された モデル 技術が TM2.0です。その後も、私は 「数学基礎論」 の学習を続けていて、モデル TM3.0は 本 ホームページ にて (定期 セミナー で使用している) ハンドアウト を アップロード してあります。モデル TM3.0に関する拙著は、来年 (2022年) に出版されます (技術評論社からの出版です)。今まで出版してきた拙著 (の書名) は、私の モデル 観を反映していることに 今 気づきました www ──データベース 設計技法 (「黒本」、「赤本」) から データモデル (「いざない」) へと変わって、TM3.0では モデル というふうに変遷しています。すなわち、私の モデル 観は、データベース という特殊な領域の技術から拡張されて、「事実 (現実的事態) を写像する」 という関数を重視するほうに移ったということです。T字形 ER法は 「関連 (relationship)」 を重視していましたが、TM は 「関係 (relation、すなわち 「関数」) を重視しています──T字形 ER法と TM は、一見、技術が似ていますが、前提が違うので、まったく べつべつの技術体系なのです (TM のことを今でもT字型 ERと云っている人たちもいるようですが、私は苦笑いしています)。

 T字形 ER法から TM へ変貌していく過程において私を いちばん悩ました問題が entity を 「resource と event」 というふうに意味論的に二分割した点でした── TM は 「構文論が先で、意味論は後」 という数学的接近法をとっているので、構文論のなかに 「resource と event」 という意味論的概念をT字形 ER法からそのまま継承することは モデル として適切ではないのではないかと悩んでいました (ちなみに、TM では entity という語を使わなくなったので注意を促しておきます)。その悩みを消し去ってくれたのが、「特徴関数」 だったのです──「特徴関数」 の他にも、クラス および 「ツォルン の補題」 を流用すれば、「resource と event」 という概念を導入しても齟齬はないことがわかった。或る範囲 M (事業領域と思っていい) について、「特徴関数」 を考えます── E ⊂ M に対して (⊆ ではないことに注意してください)、(x1,・・・, xn) ∈ E のとき 1 で、かつ (x1,・・・, xn) については 「ツォルン の補題」 に従い最小値をもつとして、値の大小関係で自然数 N と対応できる 「項」f (x) を考えれば、f (x) を 「日付」 を生成条件とする 「event (出来事、行為、取引)」 とみなすことができる。すなわち、Cp(x1,・・・, xn) を 「event」 が時系列 (値 [ 日付 ] の大小関係) に並んだ関数とみなすことができる。そして、E の補集合 E' ⊂ M の外点 y を考えて、特徴関数 Cpに加算してみる──

    Cp(x1,・・・, xn ∨ y).

 具体的に云えば、(受注、出荷、請求 ∨ 従業員)──明らかに、この関数は原始帰納的関数ではなくなる。とすれば、E ∨ E'(排中律)を使って (E ∨ E' ⊆ M)、E の 「特徴関数」 が成立すれば、法則型推論を定式化できる (その法則型推論が TM の 「関係」 文法なのです)。

 上述したように、「特徴関数」 が TM の 「関係」 文法の基底になっています。それがゆえに、TM は法則型推論 モデル なのです。T字形 ER法から始まった技術だったのですが、思えば遠くに来ました。私は 「数学基礎論」 の学習を続けています、そして 今 私の頭には TM4.0の構想が浮かんでいます。その構想が具体化できるのは いつの日になるのか想像できないけれど、百尺竿頭進一歩。 □

 




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