2022年 2月 1日 「12.3 閉包と外点」 を読む >> 目次に もどる


 TM の前身であるT字形 ER法をつくったときに、私は モノ──当時は entity という語を使っていましたが──を次の二種類に分けたことを悩んでいました (その分類が妥当なのかどうなのかを証明しきれなかったので悩んだしました)。

    (1) Event (Entity のなかで、「日付」 が帰属するもの)

    (2) Resource (Entity のなかで、Event 以外のもの)

 私は 40歳前半の頃に、コッド 正規形を手本にして、事業構造を記述する技術 (実地に使っていた技術) を体系化して T字形 ER法としてまとめました (その状態をあらわしているのが拙著 「黒本」 (1998年出版) です)。当時、私はT字形 ER法を理論的に──論理的に──検証していなかった、T字形 ER法の体系を整えるのに精一杯でした。ただ、T字形 ER法を論理的に検証したかったので、いっぽうで 「数学基礎論」 を学習していました。そして、「数学基礎論」 の学習成果を以てT字形 ER法を検証した拙著が 「論考」 (2000年出版) でした。「論考」 では、T字形 ER法を構文論の観点から検証しただけであって、意味論の検討は ほとんど されていなかった。T字形 ER法を構文論の観点から検証してみて、いくつかの不整合な技術 (特に、セット と サブセット についての技術、多値の AND についての技術) があったので、それらの不備を改正して、(「論考」 の学習成果をふまえて) 「赤本」 (2005年出版) を著しました。「論考」 も 「赤本」 も、構文論の不備を訂正したのであって、いまだ 意味論を真っ向から検討していなかった。このときに、T字形 ER法を構文論の観点から見直して TM という新しい呼称に変えました (その TM が バージョン 1 です、TM1.0 )。ただ、それらの拙著を執筆していたときに、ゲーデル の 「完全性定理」 を習得していて、「構文論的な証明可能性 = 意味論的な恒真」 ということを はっきりと意識するようになって、「Event と Resource」 という意味論的な分類を TM の構文論のなかに入れていることについて ますます 悩むようになっていました。そこで、モデル 論の意味論を学ぶために、「数学基礎論」 を再学習しました、その学習成果が 「いざない」 (2009年出版) です。

 「いざない」 では、いままで手薄になっていた意味論を学習して、「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 に初めて言及し、TM を意味論の観点から見直しました──そのときに一番に検討対象となったのが 「Event と Resource」 でした。「いざない」 を執筆するにあたって、「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」・ゲーデル の 「完全性定理」 「不完全性定理」 を再学習してみて、「特徴関数 (特性関数とも云う)」 の考えかたを知って、この関数が 「Event と Resource」 の分類に対して適用できることをわかって、この (意味論的な) 分類が 構文論上 二つの クラス f (x) として扱えば、「特徴関数」 の観点から説明できる [ 証明できる ] ことを知りました。ただ、この分類を二つの クラス として扱うには、entity という語を使うことは不適切です。そこで、entity という語を捨てて、「項」 という語を全面的に使うことにしました。

 「項」 という語を使い、「特徴関数」 を前提に置くならば、TM の体系を当然ながら 「関数」 を主体にして組まなければならない。そこで、「関係=関数」 というふうに考えて、モノは 「関数」 のなかの変数に過ぎないという関係主義に立って、TM を見直しました (再体系化しました)──その再体系化された TM が TM3.0 です。TM3.0 について、拙著は 今まだ出版されていませんが、今年中に出版します (「技術評論社」 からの出版です)。この見直しに最大の貢献をしたのが 「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 です。この定理は、モデル 論が生まれる契機になった定理ですが──すなわち、モデル 論を学習するなら、最初に学習すべき定理なのですが──、私は今になって やっと 原点に立った。数学者にとっては当たり前のことが システム・エンジニアの私には──否、システム・エンジニアでもない、「文学青年」 だった私には──やっとのことで辿り着いた地点です (苦笑)。「モデル の存在性」 は、ゲーデル の定理でも使われているのですが、数学の シロート たる私は、ゲーデル の定理を技術的に辿るのが精一杯だったので、「モデル の存在性」 を中核にして TM を見直すということができなかった。ただ、「モデル の存在性」 を強く意識するようになって、私は 「F-真」 (事実的な真) を いっそう重んじるようになりました。数学では、「...の条件を満たす」 ということは 「...の モデル である」 ということです。この 「...の条件を満たす」 という一番に簡単な──当たり前な──ことが腹に入るまで私は 20数年を費やしました、、、。もし、「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 と 「特徴関数」 を知らなかったら、TM は 全然 進化 (深化?) しなかったでしょう、1990年代に使われていたT字形 ER法 (あるいは、その修正版) のままで終わって 「生きた化石」 になっていたでしょうね。 □

 




  << もどる HOME すすむ >>
  目次にもどる