2022年 2月15日 「12.4 ブラックボックスと 『T-文』」 を読む >> 目次に もどる


 私は、「数学基礎論」 を学習してきて、世間で生起する事態のたいがいは、論理的に説明するのであれば、ふたつの 「関数」 で ケリ がつくと思うになりました──そのふたつの関数というのは、f (x) と f (x, y) です。勿論、論理だけが通用する数学では、これらの単純な関数だけではなくて、数学的構造を証明するために多種の関数を使うのでしょうが、われわれの日常生活では論理式を厳正に立てられない事態のほうが多いでしょう。それでも、ものごとを考える学習をしてきた人たちは、日常生活の事態についても、或る程度 数学的な (すなわち、論理的な) 思考をしているはずです──その思考が、私にとっては、f (x) と f (x, y) という関数なのです。

 f (x) は、モノ の性質とか モノ の集まりとかを表して、f (x, y) は、モノ と モノ との関係や モノ から モノ を作る関数を表しているので、なんらかの 「構造」 を調べるときには、これらのふたつの関数を使えば説明できるでしょう。さらに、その 「構造」 そのものを一つの関数 f (x) とみなせば、f が 「構造」 のしくみ [ 内部 ] を表して、x が その 「構造」 に作用する外部の モノ すなわち入力項とみなすこともできるでしょう──その f が いわゆる 「ブラックボックス」 の考えかたでしょう。

 事業分析・データ 設計のための モデル 作成技術 TM でいえば、f (x) の x が原帳票などの 「情報 (文字列)」 であって、f が 「構造」をつくる 「関係」 文法です── f (文字列) ということです。そして、f (x) の出力 [ y = f (x) ] たる y が形式的構造です。そう考えれば、f は論理規則の集まりです。つまり、文字列を入力して、それらの文字列に対して論理規則を適用して、無矛盾な形式的構造を出力する しくみ を f (x) = y が表している。数学では、この 「構造」 について、L-真 (導出的な真、無矛盾性、構文論的な真) と F-真 (真とされる値が充足されること、意味論的な真) が満たされていれば十分なのですが、事業分析のための モデル では、もう一つ要件を満たしていなければならない──その要件は、数学的構造と現実的構造との違いから生じる意味論的な真に関わる点です。その要件とは、「形式的構造と現実の事業構造が一致していなければならない」 ということです。その構造的一致を検証できる モノ は、事業過程のなかで生起している出来事・行為・取引 (TM で云う Event) なのです。それがゆえに、TM では、デイヴィトソン の T-文 (Test 文、検証するための規約) を真理条件にしています。デイヴィトソン は、「形式的言語 L では、形式的構造は 『T-文』 の テスト に対して開かれていなければならない」 ことを示しました (彼の著作 「行為と出来事」、「真理と解釈」)。

    デイヴィトソン の T-文──

    言明「p」が真であるのは、時刻 t において、事態 p と対応するときに限る。

 この T-文は、タルスキー の示した真理条件を下地にしています。

    タルスキーの真理条件──

    文「p」が真であるのは、p のとき、そしてそのときに限る。

 タルスキー は、クラス 算についての真理条件なので、「定理」 (すなわち、「論理」) について述べているので、全称的言明ですが、現実的事態では、数学的な全称化が成立しないので、デイヴィトソン は 「時刻 t において」 という制約を置いています。現実的事態 (事業) は、運動の連鎖です──出来事・行為・取引などの 「関係」 を記述して、現実的事態 (事業) の 「構造」 を明らかにするのが TM の目的です。したがって、TM が 「ブラックボックス」 であれば、その出力たる形式的構造は T-文の テスト を満たさなければならないでしょう。そもそも 数学では、「...の条件を満たす」 ということが 「...の モデル である」 ということなのだから、現実的事態を分析の対象にした場合には、数学の モデル に加えて、さらに 「形式的構造と事業構造が一致している」 という条件を満たさなければ──言い替えれば、モノ と モノ との 「関係」 の連鎖を明らかにしなければ──、現実的事態を形式的構造に写像したことにはならないでしょう。 □

 




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