2021年 2月15日 「9.1.2 「『存在する』 とは変項になり得ること」 を読む >> 目次に もどる


 前回、実体主義と関係主義の大まかな考えかたを述べました。今回は、関係主義について、その根底になる技術を述べます。

 ロジック (論理学) では、2つの主語のあいだの関係を aRb として表現します。
 aRb は次のように読みます──

    個体 a は個体 b に対して関係 R にある。

 関係 R は、Relation の省略形です。aRb は 「判断」 ではない──「判断」 とは、真 (true) あるいは偽 (fault) である性質をもつ言語的形態のことです。叙述文の形式 [ 主語-述語 形式 ] を使って表現されている判断のことを命題と云います──たとえば、「佐藤正美は男である」 とか 「佐藤正美は 67才である」 とか、すなわち一つの主語と一つの述語を使って構成される叙述文のことです。この形式を使って ロジック を探究しているのが命題論理学です。しかし、命題論理では、次のような二つの主語のあいだに成立する叙述文を分析できない──

    a is on b. (他にも、a is greater than b とか)

 このような二つの主語のあいだの関係 (aRb) を探究するのが 「関係の論理」 です。「関係の論理」 は、述語論理学のなかで扱われています。数学者たちは、aRb を R (a, b) として考えます──そして、R (a, b) は、我々が中学校で習った 2項関数 f (x, y) と同値です(*)

 ロジック では、aRb の 「関係」 R は、二つの集合のあいだの 「直積」 の部分集合です。そして、直積のなかで、たとえば、2項関係であれば f (x, y) を使って、任意の x の値に対して y の値が一意に付与されて、その 「関係」 R が ソリューション になれば 「妥当な構成」 と 「真とされる値」 を実現した モデル です。

 今まで述べてきた 「関係」 は 2項関係を例にしていましたが、複数の集合のあいだでの 「直積」 を考えることもできます (これを多項関係と云います)。多項関係の一般式は次の式です──

    R{ s1 ∈ X1, s2 ∈ X2,・・・, sn ∈ Xn ∧ P (s1, s2,・・・, sn) }.

 この一般式は、以前の エッセー のなかで説明してきました (「関係」 および 「多項述語」を参照してください)。この式のなかでの X1,・・・Xn は、集合 (セット) です。この式は 「選択公理」 を使って説明すれば、「(空でない) それぞれの集合から それぞれ一つずつ元を選んできて、それらの元を列べたら集合 (tuple) になる」 ということでしたね。すなわち、それぞれの元は 「関係の論理」 aRb において変項として扱われているということです。

 範囲を限定された領域 (domain とか universe とか云います) において、そこに存在している事物・事象の構成 (関係) を記述するには、「関係の論理」 を使うことになるでしょう、そして 「関係の論理」 においては、それぞれの事物・事象は集合の元として考えます。すなわち、「関係の論理」 では、モノ (個体) は無定義語であって、変数として扱われるということです。そして、この変数に値が充足されたならば、その モノ (元すなわち個体) は存在しているということです。つまり、モノ が存在するということは、「関係」(多項関係の関数) のなかで変項になり得るということなのです。

(*) 数学では、関係 R と関数 f は厳正に云えば違うのですが──数学の証明式では、R と f は ちがうものとして扱われますが──、我々が数学的技術を実地に使う場合には同値と見做しても問題はないです。

 




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